扱う染料はふたつだけです。どちらも植物から採りますが、育ち方は正反対で、藍は日に当たるほど褪せ、柿渋は日に当たるほど濃くなります。生地としての手ざわりや向き不向きも、そのぶん違います。

藍は褪せていく

藍は生きています。甕の中で菌が働いていて、その日の気温と機嫌で色の出方が変わります。濃くしたい日は、乾かしては浸けるを何度もくり返します。空気にふれた瞬間、緑から青へ変わります。

染め上がりは褐色に近い濃さです。そこから一年ほどで縹、三年で浅縹、十年で水浅葱まで淡くなります。抜ける順番は着る人の動きのとおりで、袖口から、膝から、折り目から先に色が退いていきます。

柿渋は濃くなっていく

柿渋は青いうちの渋柿を搾り、二年ほど寝かせた液を使います。染めるというより、布に膜をつくる仕事です。塗って天日に干す、それだけをくり返します。

はじめはうすい琥珀色です。日に当たった面から少しずつ弁柄へ、やがて渋茶へと深くなります。ただし擦れるところだけは逆に色が抜けるので、濃くなる面と抜ける面が一枚の中に並びます。塗り重ねるほど繊維が締まって水を弾き、布そのものが丈夫になります。仕上げたてはかすかに柿の匂いが残りますが、ひと月ほどで抜けます。

生地としての違い

藍は糸そのものに色を入れるので、手ざわりは染める前とほとんど変わりません。柿渋は布の表面に膜をつくるため、はじめは少し張りがあり、使ううちにやわらかくほぐれていきます。

そのぶん向き不向きも変わります。並べると次のとおりです。

項目藍染め柿渋染め
色の変化使うほど褪せる使うほど濃くなる
手触りやわらかい塗膜でやや張りがある
耐水性特になし塗り重ねるほど水を弾く
向いている品衣料全般鞄・小物など
匂いほぼ無い仕上げ直後はかすかに残る
お手入れ陰干し。淡色と分けて洗う硬く絞らない。湿気を避けて保管

同じところ

どちらも生きていた植物から採った色です。そのぶん日や水や手の脂に反応します。膜で閉じ込めて変化を止める染め方はしていません。

変わっていくことが前提なので、繕いと染め直しを承ります。年月が経つほど、直す値打ちが出てきます。

どちらを選ぶか

普段づかいの衣料なら藍染めです。肌に当たってもやわらかく、洗う回数が多くても付き合いやすい。淡い色の服と分けて洗う手間だけ見ておいてください。

雨や汚れに触れることの多い鞄や小物なら柿渋染めです。塗り重ねた面が水を弾き、布そのものが丈夫になります。

どちらも一点ずつ手で染めています。迷ったら、店で生地を触って選んでください。